もちつき2023

  臼と杵が倉庫に眠っていたのを見つけたとか譲ってもらったとかで、じゃあ餅つきをやろうということになり山奥の村に老若男女十数人が集まる。定期的に行われているイベントというわけではなく、呼び掛けに集まった人たちは誰ももちつきのやり方を知らなかった。

 みんな餅つきに参加したことがないわけではないけど、数十年やってないとか子どもの頃にやってたとか、そういう感じ。しかし現代にはインターネットがあり、餅つきのやりかたを解説しているサイトもある。臼も杵も羽釜も蒸し器も、薪も土地も人手もある。

 前日から餅米を水に浸し、臼と杵も水につけておく。が、古い臼にはヒビが入っていて徐々に水が漏れていく。もう仕方ないのでこのままいこう。藁を敷いて臼を据える。

 火を焚き湯を湧かす。釜を用意する前に先に火をつけておけばよかった。湯が沸くのを待って餅米を蒸しはじめる。

 その間に餅に合わせる食材を準備する。餅とり粉、きな粉、あんこ、納豆、大豆、大根、桜えび、しょうが、バター。粉は持ち帰り用、あんこはぜんざいみたいにする。バターと納豆はそのままつけて食べるらしい。大根はおろして桜えびと混ぜる。しょうがもすりおろしてつけて食べるらしい。大豆もすりつぶしてずんだにする。知らない食べ方がいろいろある。

 集まったメンバーは年齢は70代から1桁まで、出身も北海道、東北、静岡、京都、四国、九州と様々あり、「納豆? 餅に?(ほぼみんな)」「そもそも納豆食べたことない(関西)」「納豆はよくある(東北)」「あんこを中に詰めるしか知らん(九州)」「桜えび大根おろしは正月とかにある(宮城)」などの感想が出る。東北の餅の食べ方が多様だというだけな気がする。

 同時に家主が前日から仕込んでいたもつ煮も振る舞われる。このあたりから既に酒を飲み始める人たちもいる。餅を搗く段階になってから「めんどくさくなった」とか言わなきゃいいけど。

 いよいよ米が蒸しあがり、温めていた臼に入れる。杵はひとつしかないので交代で米をつぶす。なかなか疲れる。3人くらいやったところで少し餅らしくなってきたので搗きはじめる。

 杵を振り上げて1搗き目、臼の縁を削って木屑が入った。そういえば昔やった餅つきでは縁を叩いたら交代するような雰囲気でやっていた気がする。2人目は高速餅つきの真似をして腰を痛めた。3人目、杵の重さを利用して搗こうとするもあまりうまく搗けている気がしない。4人目…とゆるゆる続く。うまく合いの手を入れる技術も無いのでゆるく進む。時間を食うと餅が冷えて固くなってしまう。なかなか難しい。

 いい感じに餅になったので千切ってはいろんな食材と混ぜたり雑煮に入れたりしながら片っ端から食べる。餅つきってこんな感じだったっけ? 餅はつきすぎというか冷えて少し固くなっていたがなかなかおいしい。でも数切れで割と満足してしまう。2升しか用意してなかったけどちょうどよかった。大根おろしとしょうがで食べるのは初めてだったけどこれが一番私は好きだった。

 あとは片付けつつ、酒を飲んで駄弁ったり、誰かが持ち込んだ簡易ピザ釜でピザを焼いたりなどして過ごす。

 終始みんなで「餅つきってこんなだったっけ?」と言いながら手探りで進めたが、それはそれでなかなか面白かった。伝統行事を再現しているような趣きがある。